くらしのうみ

書くのが好きな人の、たいしたことない大事な日々と人生。

獄炎のマトリフとガンガディアが好きなので、ひたすら語った。

この二人と、かかわりの深い人物と、キーとなる呪文について、とにかく語りたおしてみる。

 

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【マトリフという男】
人間くさくていい。
ヨミカイン魔導図書館で唱えたサムズダウンのベタンが最高にかっこいい。世界一かっこいいじじい。
獄炎のとき83歳、ダイ大のとき98歳。なにもそこまで高齢にしなくても。だけどポップという後継者がいてすべてを託せたからいいのか…  いやよくない…  せっかくの余生を楽しんでもらいたのに……
師匠しれっと120歳くらいまで生きそうだけど。

頭いいし賢いしそのせいで理不尽な人生を歩んできたわりにカラッとしていて「自分も含めて人間はクズ」を大前提とした諦観で生きているところが、ちょっといままでに出会ったことのない味方キャラ造形で味わい深く、噛みごたえがある。
惚れた女と添い遂げられなかったから形だけでもクズであろうとした・そうでもしないと独りが耐えられなかったのはありそう。
いわゆるファッションクズやってるだけの本当は面倒見のいい男。同性のガンガディアが認めてくれたのは素直に嬉しかっただろう。
人間は皮肉や卑屈、謙遜を織りまぜながら話すから…  別種族、異なる価値観ゆえのストレートな言葉は彼の魂に響いたはず。

マトリフにとって魔王討伐の旅は、失った青春のやりなおし。
他者への興味関心が薄く滅多に人を好きにならない非干渉の人(になってしまった。使命と才能ゆえ人とのかかわりをあきらめてしまっていた)が、根っこにある善性を隠しきれず、悩むロカのことをほっとけなかったりする。
なるべくして勇者一行の大魔道士になった彼が平和をとり戻したはずの世界で諸々の絶望から世を捨てたのも無理はない。
彼の挙げるみんな死んだ「いいやつ」の中にはかつての好敵手ガンガディアも含まれていると信じてやまない。

マトリフによる戦いの制し方は知識と能力だけでなく人生経験の差が出る感じでめちゃくちゃいい。
火竜の生態とか、遠隔メドローアとか、なにそれかっこいい……

 

【ガンガディアという男】
かっこいいライバルのメガネキャラ。
アバンが能力を隠すためなのに対し、ガンガディアは知性の象徴としてメガネをかけている。
サババでの再戦で「デカブツで〜す(意訳)」と自ら言ってくるところはいかにも頭のいい人がやる切り返しで、とてもいい。

ガンガディアには知性と鍛練で呪文を操れるようになった自負があるから、ウロド湿原でマトリフが見せた新呪文を自分でも完成させられる自信があった。しかし一年かけても全くできなかったことで、呪文ではマトリフに一生敵わないことを悟ってしまった。魔王の側近として大魔道士を倒すには呪文対決では不可能。彼に呪文を使わせない戦い方をしなければならない……
主たる魔王ハドラーをそっちのけにすれば矜持と敬意をもって呪文で戦う道もあったのかもしれないが、そもそもガンガディアにとってハドラーがかかわらない戦い自体が存在しない。
「すべての戦いを魔王のために」。マトリフ同様「クールで冷静なパーティーの魔法使い」である。

しかし、より悲壮感が強かったのはガンガディアのほうだった。
勝敗を分けたのは「心のありかた」とも言えた。
マトリフと戦えば勝敗にかかわらず自分はおそらく死ぬと覚悟した時点でハドラーのその後のことは健闘を祈るしかなかった。そして全てが終わってしまったからこそドラゴラムの魔導書をマトリフに託したのだ。
しかし、ほぼ相打ちの形で勇者アバンから大魔道士マトリフと極大消滅呪文を切り離せた。勝負にこそ負けたものの忠義を果たし最大の目的は遂げたといえる。
あとは本当にハドラーがアバンに勝つだけ、というところまでやってのけたのだ。

 

【二人の関係性】
ガンガディア「己を捨てる」
マトリフ「オレは超天才」
明暗を分けたのはここか。

ガンガディアはマトリフを魔法使いとして尊敬しているのはもちろんのこと人生の先輩・目上の男としても敬いながら接していた。
単純な年数では自分のほうが長く生きてるだろうけど、人間換算だと相手が年配者だとちゃんとわかっているようだった。
ガンガディアほど賢ければ、仮にマトリフが勝って生き延びてもそれほど先は長くないとわかっていたのではないか。

だからこそマトリフとガンガディア、友だちになれたらよかったのに……
最高の賛辞を贈りあった瞬間が死別なのが悲しくも美しく、ある種の清涼感すらおぼえる。

ヨミカイン魔導図書館に通う二人がうっかり出会わなかった理由が、ガンガディアが絶対に手にしないであろうジャンルの本にマトリフが吸い込まれてたからなの、いまさらながらにおもしろすぎる。
この真相をぜひガンガディアにも知ってほしかった。
そして後々になって「ばかじゃないの」って笑いあってほしかった。

 

【ハドラー】
聡いガンガディアは、魔王ハドラーが臆したことを察していた。
しかしハドラーを見限ったところで個人的にマトリフと戦う以外に別段やることがない。
ハドラーの配下でいたからこそ尊敬する好敵手と出会え、マトリフと戦えるのだから離反する理由などあるはずもない。

魔王ハドラーにとってのいちばんの損失はガンガディアを喪ったこと。
ガンガディアが生き残っていれば旧魔王軍は再起できた。
結果的にはほぼ相打ち。それでもガンガディアをハドラーから切り離したマトリフの献身は勇者アバンの勝利を呼び込んだ。
ハドラーはガンガディアがマトリフに本を渡したところを見ている(まだテレビ消してなければ、の話になるけど)。
あのときの精神状態でガンガディアに裏切られた(とハドラーは思った)のはかなりキツそうである。そりゃあ、やけっぱちにもなる。

ハドラーは魔族の肉体を捨て己の身を超魔生物と化したとき、自らの信念を曲げることで忠義に殉じ散っていったガンガディアの気持ちをはじめて理解するのだ。あの世でガンガディアに謝ってほしい。

 

【ポップ】
マトリフが一年ものあいだ死ぬほど苦労して作ったメドローアを一発で会得したポップ、天才すぎる。
また一度見た・かすっただけでメドローアの仕組みを理解したガンガディアもポップと同じくらい賢いことになる。
ただポップのほうには種族人間のアドバンテージがあった。

マトリフもガンガディアならできるかも、と仮定して対策していた。
このガンガディアとの戦いと経験が後々にものすごく活きたのだ。
後年のマトリフにとってガンガディア以上に心わかせてくれた存在が目の前にあらわれたこと、そしてそれが自分の弟子だったことは最高に幸せな出会いだっただろう。
ポップが自らの出自について劣等感を抱いていた様子を見守りながら、マトリフはガンガディアのことを思い出したはず。
マトリフはガンガディアという努力で常識を覆した男を知っているので、ポップに対しては「お前はオレと同じ人間で、センスと才能もある」と信じる気持ちがあった。
ガンガディアと出会えたからこそポップを導けたのだ。
弟子のポップへの極大消滅呪文の継承をもって過去との訣別ができ、マトリフの長かった戦いはようやく終わりを迎えたのだ。

 

【ドラゴラム】
崩壊するヨミカイン魔導図書館からガンガディアが持ち出したあの魔導書の呪文、あれはきっとマホカンタにちがいない。ダイ大を読み込んだ人ほどスリードしたはず。
ガンガディアなら絶対マホカンタ使ってくる、と踏んでたけど「それ以上」を見られて最高だった。

「見たまえ!己を捨てて獣と化した我が姿を!」
ドラクエとくにダイ大におけるドラゴンは神にも等しい存在なのにそれを獣と言い切るガンガディア、気高すぎる。
「そんな小手業効くかッ!」も戦闘時の昂揚と獣性が出ててめちゃくちゃよい。
ガンガディアは自分の呪文をマトリフに見てほしかったのだ。そして魔導書を託すということは自らの死と敗北、魔王軍の終わりと尊敬する好敵手の未来を祈ることに他ならなかった。

 

メドローア
ガンガディアがメドローアを撃ち返してきたらそれはそれでおもしろかったけど、前日譚でやりすぎても矛盾が生まれそうだし安易にそうならなくてよかった。
メドローアがそう簡単にできてたまるか、という相反する気持ちもある。

「神業だね!何百回と試したけどできなかったよ!」と素直に告白するガンガディア、いさぎよい。
これはもう努力云々の問題というよりも根本的な種族の持って生まれる能力の限界っぽい。
ざっくりと人型魔族と人間にはアドバンテージがあるっぽい。
魔族と人間の子であるラーハルトも「さほど得意じゃない」だけで呪文自体は使えるみたいなこと言ってたし。

最大の好敵手ガンガディアが一年かけてできなかったからこそ、よりいっそうの深みを増した「センスの無えヤツには一生できねえ」。
メドローアができなかった時点で、魔法戦になれば自分はマトリフのメドローアで消滅する。ガンガディアにはわかっていたはず。
だから「メドローア使わせないし火竜になってなぶり殺しにするわ!」プランを選んだんだけど、マトリフならどうとでも覆してくることもわかっていたからたぶんもうガンガディアの心境としては「死なば諸共」だった思われる。

マトリフをして「おっかなくて数えるほどしか使ったことない」と言わしめるメドローア、そのほとんどを撃った相手がガンガディアとわかり、ますます彼の格が上がる。
ガンガディア、マトリフにメドローアを三発撃たせた男。
そして最後のメドローアを撃つ構図は、ポップがシグマに撃ったときのそれと同じだった。

 

 

 


これでも倍以上あったのを削りに削った。
語ったというより好きのぶちまけである。私も同じものを好きな人のぶちまけが読みたい。
この先の獄炎は気の重い話しかなさそうなんだけど、あえて新章を描くからには希望があるのだろうし、なによりダイ大という未来につながることを知っているのでゆったりかまえていられる。
ガンガディアはもういないけど、それはそれ、これはこれ。

 

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