やり残したことがあったので、ひとりでふらっと行ってきた。



月末は仕事を早上がりできる。ので18時頃に入場しても充分に散策できるなあ、と気づいてからずっと浮かれまくっていた。
母を連れていた際は日中の暑い時間で、母の気持ちや体調を優先したため目的地をしぼりに絞っていたのだった。*1
買いたいものや食べたいもの、行きたいところ見たいものがまだ山とあった。
なにより夢の街の夜を楽しみたかった。*2

まずは腹ごしらえから。
マレーシアのロティーチャナイ。クレープみたいな生地*3を手でちぎって浸しながら二種のカレーを味わう。カレーはダル(豆)とチキン。やさしいカレーでおいしい。
「ビリヤニを食べる! 晩ごはんは絶対にビリヤニ!!」と来る前からビリヤニのことで頭がいっぱいだったのに、いざ来てみるとカレーに吸い寄せられてしまった。
私はカレーが好きだ。カレー欲にはあらがえない。
ビリヤニといえばインド。
インドって改名してたんだ。万博がなかったらずっと知らなかったかもしれない。バーラト。
絶対に食べたかったシリーズその①バーラトのビリヤニ。
食べたかったということは、食べそびれたということ。
パビリオンを見終わった後はカレーを食べてすぐだったし「まだいいや、帰りしなに買おう」と見送ったら痛恨の判断ミス。
閉店前には長蛇の列ができていて泣く泣くあきらめた。*4

食後のおやつはトルコアイス。
ねばりとコシのあるちゅるちゅる食感すき。
待ち人が少なかったから「なかなかアイスくれない」おなじみのパフォーマンスもしてもらえた。おもしろ!*5
ドイツとルクセンブルクのレストランには、やっぱりこの日も大行列で入れなかった。
「夜間ならテイクアウトくらいはできるだろう」という楽観的なアテが外れたのだった。
家族、特に日頃から「ドイツの本場のソーセージを食べてみたい」とつぶやく母にほんまもんのソーセージをお土産に買って帰りたかったのに。
フードを断念してめいめいにタオル類を買う。
我が家の人間は、買ったもの景気よく使う。「もったいないからしまっとこ」なんてことはしない。
きっと万博タオルも使いたおされる。刺繍されたミャクミャクも本望だろう。
絶対に食べたかったシリーズその②ポルトガルのエッグタルト③トルコのバクラヴァもうっかり食べそびれてしまった。店が閉まっていた・売り切れてた。
見たかったイタリア館もとんでもない人だかりでこれから並ぶこと自体が厳しかったし、とりこぼしたものを拾うミッションにはほぼ失敗したといえる。
「18時からでも余裕やん?」とんでもない。ぜんぜん時間が足りなかった。
でもこれは死にものぐるいで予約とりをしたり並んだりしなかったからで、「あんまりせかせかせんと、入れるとこ入って食べられるもの食べられたらええやん」な姿勢でぶらぶらを楽しんだから。
その副産物的に花火もドローンショーもうっかり見ることができたのだった。ラッキー。


最後に自分のための買い物をした。
ガンビアのブレスレットとブータンのピアス、こみゃくのタオルハンカチとミャクミャクのミントタブレットを選んだ。


アクセサリーはたぶんどっちもイミテーション。だけど私はべつに本物思考じゃないし、遠い異国の人たちが自分たちの国から持ち運んできたおもちゃをお裾分けしてもらった事実がありがたく嬉しいし、めずらしくておもしろい。
ずっとずっと前から身につけられる、ちょっとした意味と重みのあるお守りがほしかった。きっとこれからの暮らしの中でさりげなく寄り添ってくれるだろう。


なんだかんだ会場を後にしたのが閉場三十分くらい前。電車に乗るための列にもまれてぐるぐるまわりながら、何かのためにひとりでこんなに並んだ最後は競馬場で、応援していた人馬がGⅠに出走したとき以来だなあ、などと思い出したりしていた。
夢中になれるものがあれば。欲があれば。いつだってどこへだって行ける。
「もう一回来たいよなあ。」
来ることはできるしやぶさかではないけれど、ここへ来ると「祭り」になって、ものすごく気前が良くなってしまう。
欲を満たすために時間と金と労力を使うのにも限度がある。もう充分味わえたから今回はここまでかな、と自然に思えた。
若い頃にはなかった感覚。「ほしい」をあきらめることはいつもとてもつらかった。いつも必死で、死にものぐるいだった。
私は今、ほしいものでいっぱいの自分を制御できている。手放したり離れたりをくりかえすうちにやっと大人になれたのかもしれない。
まあまた夜にふらっと、ひとり歩きにだけ来るくらいならアリかな。
制限つきの自由を感じながらもうひとがんばり。ぎゅうぎゅうの電車につめこまれながら家路についた。
最寄りの駅を降りた瞬間に忘れていた空腹がよみがえってきた。コンビニでおにぎりと冷たいレモンチキンタルタルを買って帰って食べた。「普通めし」も大変おいしい。夢が覚めて日常に戻ってきた。ひとまずさようなら、夢の街。
翌朝起きたら母がお土産のタオルハンカチを箱ごと立てかけて飾っていた。お盆に帰省する日におろすそうだ。
ミャクミャクも私もにっこり。

*1:おかげで一日中いた割にかなり楽だった。
*2:自宅から会場までは大阪メトロで一時間とかからない。一日券のほぼ半額で夜間券を買えるのも魅力的。大阪人の特権を存分に行使してきた。
*3:レストランのお兄さんがクールなラップをBGMに、こねた生地を極限までうすうすにひきのばしてペタンペタンと折りたたんでいた。魔法みたいな手際の良さだった。老祥記の豚饅頭を包む職人を思い出した。
*4:ちなみにビリヤニの店は他にも数店あって、ネパールの「ビリヤニ&モモハウス」はあびこに、パキスタンの「大阪ハラルムガル」は堂島に実店舗がある。本店を一時閉店しての万博参加らしい。
ああ大阪人の特権! 万博が無事終わったらゆっくり食べに行くつもり。
*5:トルコアイスおじさんは「(日本人か? と訊かれて日本人やで〜! と答えたら)中国人に見えたわ」「アジア人は見分けがつかへんわハハハ」みたいなことを言っていた。たぶん。しっかり聴きとれなかったけど邪気はまったく感じなかったので、他愛のない世間話だったんだろう。これも外へ出ないとできない体験ってやつか。なんとなく漫画スルタン・スイートを思い出して後日読み返した。以前よりずっと好ましく読めた。