くらしのうみ

書くのが好きな人の、たいしたことない大事な日々と人生。

これは赦しの物語「竜送りのイサギ」

ひさしぶりに心躍るバトルファンジーを読んだので、書きとめておきたい。
歳をとればとるほどに、バトルファンジーっていうのはめんどくさいのだ。読むのも設定を把握するのも萌えるのも。
でもこれは、読まされた。一気に掴まれて引き込まれた。

 

主人公の櫛灘イサギは年少の身ながら首打人という忌み仕事に就く役人で、罪人の子という生まれから理不尽に蔑まれつづける被差別階層の人間だ。
あるとき「使命」により、父とも師とも慕った恩人を斬らなければならなかった。
そのことが生涯の心の傷にも恩師とのつながりにもなり、「竜を殺す」という天命を決定づけることにもなった。
冒頭で、いのちにかかわる禁忌を犯した少年。
語弊はあるかもしれないし比べる意図もないから本当はこういう時あんまり名前を挙げるべきじゃないんだけど、読み味は「鋼の錬金術師」に似ているなと感じた。
このまんがは決しておかしなことにはならない!という安心感がすごい。
心の傷や痛みを描くことに対して丁寧で繊細だ。傷つけ悩ませ悲しませるだけで終わらない。だから重いけれど、このまんがには決して傷つけられることはない。
安心して心のありかに思いを馳せることができる。

孤独だったイサギは生まれ育った島を出て、自分以外の他者との出会いを通して、さまざまなことを知っていく。
人が人とかかわるということ。
人とかかわり社会の中で生きていくということ。
人に赦され救われるということ。
自分を愛し赦すということ。
人を信じることは自分をも信じるということ。
すべて独りでは分かりえなかったことだ。
このまんがには「人とかかわる」「赦しがたきを赦す」ことが何度もくりかえし描かれる。
だから読んでいて救われる想いのする人もたくさんいると思われる。
世を恨み自分を赦せなかったイサギが、タツナミとチエナミと出会い、ゆっくりと自らの心で救いを見出していきつつあるように。
みんな本当に筋の通った気のいい人たちなのだ。単純にバトルまんがとしても緻密かつ大胆でおもしろい。設定が練り尽くされているし、何より絵がめちゃくちゃうまい。竜が登場する見開きはぜひカラーで見てほしい。

というわけで竜送りのイサギはもっと流行るべき。もっとたくさんの人に読んでほしい。私はアプリで知ってすぐ単行本を買いそろえた。来月の4巻が待ちどおしい。
でもこれはさすがにアニメ化できないかなあ。
人間の首が飛びすぎる……   けど、ぜひともアニメで観たい!!